今からできる節約法=健康 ― 健康と医療費


健康が良いのはわかるけど…

身体や精神を病んでも、闘病の末に完治したり、治療の継続で今まで通りの生活が送れた場合、それはハッピーエンドとされることが多いです。

しかし、身も蓋もない話ですが、健康と医療費は切っても切り離せない関係です。治療に掛かる費用は到底無視できるものでなく、収入も減りうる状況で、医療機関への交通費などを含めた医療関連費の捻出は非常に難しい問題です。いくら医療ソーシャルワーカーの方が頑張ってくださっても、病前に立てていた計画は様変わりしてしまうでしょう。

そこで今回は、健康を損なった時や老後備え、いくら医療費として用意しておくべきか、また、健康でいることの経済的メリットを整理してまいります。これから資産をどう管理するか、あるいは健康維持について考える際に、お役立ていただければ幸いです。


失って気づく大切さ。健康とは?

失って気づく大切さとして頻繁に話題に上がるのが、「健康」でしょう。本題に入る前に、まずは定義を確認します。

WHOは健康を、1948年に以下のように定義したそうです。

健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(公益社団法人 日本WHO協会訳より引用)

この定義については、いろいろ議論があるとのことですが、ひとまず健康といっても体や心以外の観点でも語られるものであることがよくわかります。

さらに、それぞれが密接に関連しているというのも興味深いです。例えば、体の具合が良くなれば少しは気も晴れることで精神状態もよくなり、ひいては会社や様々な人との関わりである社会生活にも良い影響を与えるといったように。

体と心、社会は互いに影響し合っているからこそ、健康であれば好循環が生まれますが、逆に体や心を病めば社会生活にまで悪影響が及ぶのですね。


不健康がもたらす不利益

健康の意味を改めて整理したところで次は、健康でないと生じる不利益を大きく二つに分けて考え、最終的に今回のテーマである経済面に迫りたいと思います。

1. 活動面での不利益

一つ目は活動面での不利益です。行動への制限とそれによる精神的負担、さらには将来的な選択肢の減少など、その影響は多岐にわたるでしょう。

具体的には、好きだった食べ物がもう食べられない、行きたかった場所へ行けない、転職を迫られる、病前から交友のある人たちとの関係が保てなくなるなどなど。

数字として表すのは難しい一方、想像するだけでも胸が締め付けられることばかりだと思います。

2. 経済面での不利益

2つ目はやっと登場の経済面での不利益です。がんといった特殊な治療が必要となる病気であればその費用、さらに完治して医者いらずとはいかないのであれば日々の医療関連費、転職・離職による収入低下などがこれにあたるでしょう。

日本の場合、皆保険制度や高額療養費制度で直接的な負担は抑えられているのかもしれませんが、負担は負担です。さらに運の悪いことに、現代の日本では、高額療養費制度の見直しや病院経営難がニュースで取り上げられています。

消費税が嫌でも変わるように、医療費に関する制度もいつ変わってもおかしくないと想定して備えておくのも、賢明な選択肢になってきていると考えます。


老後も心配。医療費はいくらに?

さて、皆さんは老後を含めた将来の医療費をどれくらいとして想定していますでしょうか。

厚生労働省の最新統計(令和4年度)によれば、

  • 2022年度の国民医療費総額は約46.7兆円 ⇒ 国民一人当たり換算で約36万円/年
  • 年齢別では、45歳以上65歳未満で約30万円、65歳以上で約78万円
    (特に75歳以上では約94万円)

となっており、年齢とともに急増していきます。これは、年齢を重ねるごとに大病したり定期受診先が増えていく、イメージ通りの結果ともいえるでしょう。

ちなみに、2022年のどこが最新なんだと思われるかもしれませんが、膨大なデータの集計が大変なようで、データが確定するまで数年かかるようです。また、この医療費に何が含まれるかという点には要注意です。この”医療費”には、窓口で私たちが払う金額だけでなく、国や保険者が払うお金も含まれています。実際、患者等負担額は、同統計によると医療費全体の12%程度に収まっていたそうで、本当に個人が平均月々30万以上払っているわけではありません

なお、確定前ではありますが、同じく厚労省から2023年度、2024年度の概算が出ているのですが、それぞれ、総額47.3兆円、48兆円と年々増加傾向にあることが報告されている点も留意しておきたいところです。

アメリカは日本の6倍!国際比較で見えるリスク

このように聞くと、必要な医療費が莫大に感じるかもしれませんが、国際的にみてみると、まだ「まし」なようです。米国を例にとると、公的機関CMS(Centers for Medicare & Medicaid Services)の発表では2022年の一人当たり医療費が約219万円/年($14570/年, $1=150円換算)に達しており、日本の約6倍にも上ります。

日本では診療報酬を抑制し医療費が膨らみすぎないように管理されているうえ、公的医療保険や高額療養費制度等のシステムによって自己負担額が抑えられています。ですが、現行のシステムにかなり依存している状況は、大きなリスクが伴うとも考えられるのではないでしょうか。

その固定費、削減できるかも!

ところで、健康であれば長期的な経費は安くなり得ることも分かっています。一つの研究を例にとりますと、東北大学の大崎国保コホート研究である、生活習慣・検診結果が生涯医療費にどう影響するかの調査結果がわかりやすいかと思います。

報告されていた生活習慣病などの要因と、その影響は以下の通りです。

  • 脂質異常:寿命が2.7年短く、生涯医療費は約1.1%高い
  • 高血糖 :寿命が2.1年短く、生涯医療費は約5.3%高い
  • 歩行不足(1日1時間未満):寿命が1.5年短く、生涯医療費は約5.5%高い
  • 高血圧 :寿命が1.7年短く、生涯医療費は約22.0%高い

    例外的に、
  • 喫煙習慣:寿命が3.7年短くなるものの、生涯医療費は約6〜7%低くなる

これは1結果です。それぞれの言葉の定義によっても結果は異なるでしょう。また、喫煙習慣は他の研究では生涯医療費が高くなるという報告もあり、どれほど長く期間、調査対象の人を追うかによっても違いが生まれるようです。

しかしながら、概ね不健康な習慣は「寿命を縮めつつ医療費も増やす」のです。だからこそ、不健康な生活習慣を断ち、健康を維持することで、大きな病気にかかる費用、あるいは定期受診にかかる固定費削減につながるといえるのです。


まとめ

ここまで、健康を損なったときの不利益を整理し、医療費がどれほど必要になるのかを見てまいりました。

散々ご紹介してきた手前恐縮ですが、将来の健康上の出費に備え、いくら用意すればいいかという議論は、介護費用など今回の論点以外の費用も絡んできます。さらに、どこまで厳しい未来を想定するかにもかかっており、きりがない印象です。

  • 「診察・治療や薬の値段を示す診療報酬が改定されることで状況が大きく変わるかもしれない。」
  • 「高額医療費制度がいままで通りでなくなるかもしれない。」
  • 「いや、皆保険なんて社会主義的な制度はもう無理かもしれない。」
    などなど…

さらに、病気の人が医者の世話になりがちな一方で、元気な人は医者いらずとなるように、散らばりが大きい医療費の平均値というのは、富裕層が平均を大きく押し上げてしまう平均年収と同じように、実際はその個人によってブレる可能性すらあります。(詳しくはこちらの記事へ)

ですが、備えあれば憂いなしでしょう。少し古い厚労省のデータにはなりますが、2010年度の生涯医療費の推計平均値である約2,900万円という数字に対し、

  1. 仮にすべて3割負担とした場合
  2. 余裕をもって全額自己負担とした場合

を考慮して資産管理計画を立てるというのは、有益と考えます。加えて、差額ベッド代や快適性のための追加費用は統計に含まれていないことも注意が必要です。入院時、想像以上に隣の人の音やにおいが気になるものです。うるさくて眠れない、かわいそうだけどにおいが気になって…といったように。だからこそ、なおさら多めに資金を見積もっておいた方が安心です。医療費の増加と収入減が同時に押し寄せる老後に備えて、こうした”余裕”を資産計画に組み込んでおくことをおすすめします。

長くなってしまいましたが本題に戻りまして、生活習慣の改善そのものが将来の医療費削減につながることを再度強調させてください。資産を備えるのはもちろん大切ですが、それと同時に、”健康を守ること” ― シンプルですがこれに尽きます。だからこそ、健康は一番堅実かつすぐにでも始められる、加齢とともに増えがちな変動費や固定費の削減につながる「節約法」と言えるでしょう。

次回以降、健康維持のためにできることなど、ご紹介してまいります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


※本記事は執筆時点の公開情報および筆者の個人的見解に基づいています。内容の正確性や将来の結果を保証するものではなく、健康管理や生活設計に関する最終的な判断はご自身の責任でお願いいたします。